ケントさんを養う話

ツイッターでフォロワーさんが「剣人さんを養いたい」からの妄想話をしていで、うっかり萌えて書いてしまった。
素敵なお話だ……。


（注意）　レス子以外の女の子が出てきます。
（注意そのに）　すごいいろいろ捏造設定してます。　

（剣人さん妄想話）




　剣人と知り合ったのは、どこでだったっけ、たぶん、どっかのバーで、あたしはすごく酔ってて。そのとき付き合ってた彼氏と別れたんだっけ、それとも、会社で失敗してすごく落ち込んでたんだっけ、もう忘れちゃったんだけど、とにかく落ち込んでいたときだったと思う。
　剣人は、詳しく語ろうとはしなかったけれど、なんだか事情があるみたいで、お家に帰れないとか帰りたくないとか、そんなようなことを言っていた。一緒に住んでいた人とすごく喧嘩をして、それでしばらく顔も見たくないとか、頭を冷やしたいとか、あいつも考えたらいいとか、とにかくなんかそんなようなことをぼそぼそと言っていた。
　そんなかんじで、剣人はいつの間にかあたしの家に出入りするようになっていたし、あたしはそれをなんとなく許していた。

　剣人がなにをしている人で、なにをしていた人なのかは知らないし知りたくもなかった。
　ただ、会社にいるちょっとした「イケメン」と呼ばれるような男たちとは全然違ってそれはもう別世界の人間のようにカッコよくて、身長は高いし顔は綺麗だし声は素敵だしなんかいいにおいもするし、昔読んでいた少女漫画だったら、「天使が下界に降りてきた」んじゃないかって思うくらい。とにかくこの世のものとは思えない感じだった。
　そんな人が自分の部屋にいる、ってことで、会社にいても電車に乗っていてもあたしの心は少し軽くなるのだった。

「ただいま~」
「おかえり」
「剣人来てたんだ。はぁ、疲れた~」
「お疲れ」
「ありがと」

　190センチくらいありそうな身長のわりに、剣人は狭いあたしのアパートにいてもちっとも邪魔じゃなかった。
　疲れて帰ってくると剣人がいたりいなかったり、冷蔵庫に入っていた食料で軽く何かを作っていたりいなかったり、お酒を買ってきていたりいなかったり、お風呂が沸いていたりいなかったりした。

　あたしと剣人はいわゆる男女関係というものではなかったし、あたしは剣人とそういう関係になるつもりはなかった。剣人のほうも、一緒に暮らしていてそういうふうにならなかったのだからそうなのだと思う。
　でも、剣人と一緒に暮らすのはとても居心地が良かった。
　あたしも剣人も、お互いに気を使うことなく、なんとなく一緒の時間を過ごしていた。

　いつまでもこんな夢みたいな時間が続くと、何の根拠もなくそう思っていた。ある日。

「悪ぃ、もうここには来れねえ」

　剣人が言った。

「どうして？」

　あたしは聞いた。でも、理由なんて聞いてもどうしようもないことなんてとっくに分かっていた。

「理由は言えねえ。今まで世話んなった」

　剣人はそれだけ言った。
　玄関のところで、靴を履いて一度だけ振り向いて、

「ありがとう」

　頭を下げて、剣人は消えた。


　剣人が出ていったあたしの部屋に、剣人の私物はなにもなかった。もういいにおいもしないし、なにも残っていなかった。一緒に暮らしていたと思っていたのは、やはり夢だったのかもしれない。あの人は、ここではないどこか夢の世界の人だったのかもしれない。
　明日から、この部屋に帰ってきても誰もいないんだなあ。
　そう思ったら、泣けてきた。
　あたし、剣人のこと好きだったんだなあ。
　剣人の出て行った玄関のドアを見ながらお酒を飲んで一晩泣いた。



　その、すぐあと。
　テレビをつけたあたしの目に飛び込んできたのは「X.I.P.の不破剣人」その人で。
　力強い声で歌い、踊るその姿と、あたしの部屋で無表情でビールを飲んでいたあの姿がどうしても重ならなくて、あたしはまた泣いてしまった。