佐伯氏２位記念

意外にもGSソートで自分内順位が高かったので、気をよくして書いてみる。

へー、わたしって意外と佐伯さんのこと好きだったんだね。
イヤ、よく妄想はしてるけども。

（灯台にて）



春が近いとはいえ、海からの風はまだ寒い。
佐伯瑛は少し薄着で来てしまったことを後悔していた。
彼女がここに来るのは間違いがない。それは確信している。けれども彼女のことだ、「いつ」来るかは佐伯にも分からない。思い返してみれば、彼女のすることで佐伯に分かることなどほとんどなかった。



目の前の扉が開いて、待ちわびた顔が見えたとき、佐伯は思わず「遅いよ、バカ」とつぶやいていた。
すっかり日は傾き、空はオレンジ色に変化していた。
やってきたのは佐伯の人魚だった。幼いころ、きっと見つけるとここで約束した小さな人魚。再会して、そして一度は自分から手放してしまった人魚。
佐伯の顔を見て驚きすぎたのか、言葉も出ずに、目をぱちくりとさせるだけのみなこの顔をみて、笑ったらいいのか怒ったらいいのか分からなくなる。

「なにか、言うことは？」
「えぇっと……ホンモノ？」
「バカ！　本物に決まってるだろ」
「だって、だって。久しぶりすぎて、見間違えたかと……」
「ほほぅ、お前は俺を見間違えるのか、こんな近くにいても？　ずっとあんなにまとわりついてたくせに？　どうやらチョップがほしいらしいな、お前」
「わぁーん、佐伯くん！　その憎まれ口は佐伯くんだー！！」
「わっ、なに……っ」

一カ月、顔を見なかった、声を聞かなかっただけなのに、本当にずいぶん久しぶりのような気がする。
今日、卒業式を迎えた彼女は自分の記憶の中の姿そのままだった。自分がどんなにみなこの姿を無意識のうちに探していたか、会えなくなって初めて佐伯は思い知った。
周りに誰もいないからか、「不用意に近づくな」という約束を忘れて飛びついて来たみなこの身体を抱きとめる。
耳元のみなこの声はなんだかちょっと泣いているようにも聞こえた。

「さえきくんさえきくん」
「なんだよ。重いぞ」
「重くないよ」
「なんでお前が言うんだよ」
「だって、女の子は重くないもん」
「なんだよ、それ」

肩のところに頭をくっつけてくるみなこの髪を軽く撫でる。
顔を見たら、いろいろ言いたいことがあったのに。ちゃんと言うこと、考えてきたのに、なんだか全てがどうでもよくなってきてしまった。
言わなくてもきっと伝わっている気がする。だって、俺たちは伝説の人魚と若者なんだからな。

ぎゅうぎゅうと抱きついてくるみなこは、その感触で自分の存在を確かめているようにも思えた。

「さえきくん、会いたかったよ」
「ん。俺もだよ」

つるりと言葉が口から出ていた。多分、顔が見えていないから言えたのだろう。

「もう、離れないからね。若者は、人魚を探しに来るんだよ。若者がいなくなったらダメじゃん」
「そうだな。だからまた、探しに来たんだ」

ぐい、と佐伯が手を伸ばしてみなこの身体を引き離すと、彼女ははっと気がついたように言った。

「そうだ！　あんまりくっついたらだめだったんだ！」

それを聞いて、佐伯は苦笑するしかなかった。
自分で言ったこととはいえ、どうして三年間もこんな面倒なことをしていたんだろう。

「もう、それはいいんだ」
「えっ？　いいの？」
「ああ。もう卒業したし、それに……決めたから」
「決めた？　何を……」
「聞いてほしいことが、あるんだ」

---

佐伯さんやっぱり最高だな！