恋煩い日記
2012年は毎日何かを書こう、という目標のもといろいろな創作をするブログになりました。
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しばこは出会い編
志波くんの話をかいていたんですけれど、そこで盛大にボツったというか、分量の都合で入れられなかったはなし。
この前書いた志波くんと小春の出会い(@生徒手帳)志波くん目線。
この前書いた志波くんと小春の出会い(@生徒手帳)志波くん目線。
(しばこは 出会い)
その日、授業をさぼろうとしていた俺は図書室に行くか、屋上に行くか、それとも中庭に行くかとぼんやり考えながら廊下を歩いていた。
入学したばかりだったが、眠るのにちょうどいい場所は既にいくつか見つけていた。それは中学の時と大して変わらない場所ばかりで、まあ、大体学校なんてものはどこも同じようなものではないかと思う。
高校にはなんとか入学したが、勉強などする気はまったくないし、その上野球もできないとなれば朝も夜も、持て余すほど時間があった。その時間を、俺はただ眠ったりぼんやりしたりと無為に過ごしていた。
あの頃はなにもする気がなくて、とにかく野球のことから目を逸らすだけで精いっぱいだったのかもしれない。
もうすぐ授業が始まる予鈴が鳴る。廊下に出ている生徒たちはみんな少しそわそわしながら時間を気にしているようだった。
そんな中を俺は一人悠々と歩いていく。
……ばたばたばたばた!!
後ろから、その俺を追い抜いて行った小さな人影があった。
俺のことを追い抜いた瞬間に、ぽとりと何かを落として行く。――生徒手帳だ。
よっぽど急いでいるのか、せかせかと速足で、だけどなぜか決して走らない。もちろん、生徒手帳を落としたことになんて気がついていないようだった。
まさか「廊下を走ってはいけません」だなんて小学生みたいな決まりをバカ正直に守っているんじゃないだろうな、などと思いながらそのやたらと小さい後ろ姿を見るともなく見送り、そいつが落とした生徒手帳を拾った。
――親切心なんかじゃない。それは断じて違う。
だったらそれではなんなのかと尋ねられても、はっきりとした答えは分からない。
多分、暇を持て余しすぎたんだろう。
なにもない毎日に。野球の出来ない、乾ききった生活に。
俺はそいつの姿を追いかけて走った。そいつは妙に律義に走らずに早歩きを続けていたから、難なく追いついた。
「おい、おまえ」
「うわぁぁ……っ? だれ? 呼んだ?」
「お前だ」
俺の声に驚いたように足を止めたそいつは、ぐるりとこちらを振り向いた。
(なんだ、こいつ)
正直、第一印象はそんな感じだった。
この学校の女子の制服は、胸のところを結ぶリボンの色で学年を判別することが出来る。男の場合はネクタイの色だ。(ただし、中には改造制服を堂々と着る奴や、俺のようにネクタイなど締めない奴もいて、そんなときには大抵上履きの色で判断する)
そいつの胸には、俺の上履きの色と同じえんじ色のリボンがきちんとちょうちょ結びにされていた。と言うことは、俺と同じ一年生というわけだった。
それにしても小さい。きちんと制服を着て校舎内にいるのでなければ、中学生かもしかしたら小学生に見間違えるかもしれない。
不思議な感じがした。
ただの同じ学年の、クラスも違う女子生徒だ。名前も知らない(拾った生徒手帳を見たから、知っていることは知っていたがまあ、ほんの二分前までは知らなかった)。
髪は短かった。耳の下と肩の間くらいの長さで切りそろえられている。俺の髪とは全然違ってまっすぐで細い。
目が、やたらと黒くて丸い。顔の半分くらい占めてるんじゃないかって思うくらいに大きく見えた。
完全に頭ひとつ分以上低いところから、突然声をかけた俺のことを訝しがるように、ひょっとしたら少しばかり恐れに近いものをも含んだような顔で見上げていた。
女子を見て、そんなことを思ったことはなかったけれど、なんだか別の生き物――たとえばマンガとかに良く出てくる二本足で立って歩く動物……ウサギとかクマとかそんなやつら――の仲間じゃねえかと思った。女子を見てそんな感想を持つ自分自身が信じられなかったけれど。
「なっ、なに……?」
ああ、やっぱり、と思った。そんなつもりはないが、いつもこの身長と目つきのせいで女子にはこういう反応をされることが多い。
まあ、もう慣れたし、どうでもいいことだ。
俺は手に持っていた生徒手帳をそのウサギみたいな生物に差し出した。
「これ、落としたぞ」
「あっ、生徒手帳! ありがとう」
そいつは両手でそれを俺の手から受け取った。
一瞬、変な間があく。
……なんだ? と思ったけれど、結局俺は何も言うべきことが見つからなかった。
「急いでるんだろ? 遅れるぞ」
「あっ、そうだった。理科室行かなきゃ。 ありがとう!」
また、変な間。
黒いガラス玉みたいな目にじっ、と見上げられた。何かを期待されているような、ねだられているような。
……そんな馬鹿なことがあるわけない。
一瞬あと、そいつはなぜか俺の名前を聞いてきた。
「えっと……おなまえは?」
「志波勝己」
「志波、勝己くん」
そいつの口から俺の名前が出てくるのを、ものすごく不思議なもののように聞いた。
「わたしはねぇ」
「小春だろ、しらすこはる」
「えっ、なんで、わたしのこと知ってるの?」
「生徒手帳に書いてあった」
「あ。……そっか。そうだよね」
俺はふっ、と息を吐いた。
マンガに出てくるウサギみたいなしらすこはる(白洲小春、という漢字を書くのだということを俺はもう知っている)は、かるく笑ったように表情を緩めた。
俺の前で、こんな顔をする女子はあまりいないのに。
……不思議な奴だ。
もうすぐ予鈴が鳴る。
あんなに急いでいたのに遅刻しても気分が悪いだろうな、そんなことを思い出して、俺はそいつから離れた。
「じゃあな」
「うん! またね」
……またね、だと。
このときの変な気持ちが一体なんだったのか、それからこのウサギのような生き物にどれだけ振り回されることになるのか、そのときの俺はまだひとつも想像できていなかった。
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