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恋煩い日記

2012年は毎日何かを書こう、という目標のもといろいろな創作をするブログになりました。

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レス子さんにもいろいろあるんです

レス子ちゃんって、過去のこととか素性が全く分からないけど、じゃあこんなのはどうですか?っていう話。

音羽くんと。


ものすごいレス子の捏造設定入ってます。しかも厨二。









(失いたくないんです)





 ねえ。
 その声に少しばかりの色を乗せて。慎之介さんが口を開いたのが始まり。

 場所はわたしのレストラン。時間は閉店してしばらくたってから。慎之介さんは閉店間際にいらっしゃって、そのままご飯を食べて、「しばらく君を見ていたいから」といって私が閉店作業をしている様子を席で座って眺めていた。

「どうしたの?」
「君は、やっぱり妖精さんか何かなの?」
「えっ、どうしたの急に……」

 慎之介さんが突然に理解のできないことを言いだすのは今に始まったことではない。
 こんなとき、司さんがいてくれたら、上手に対応してくれるのにな。わたしはここにはいない慎之介さんの【隊長】のことを思った。

「だって。僕は君のことが好きなんだ。大好きだよ」
「……ええと」
「ねえ」

 慎之介さんは音もなく席を立って、キッチンカウンターを背にしている私に近づいてきた。その雰囲気に圧倒されて、わたしは思わず一歩後ずさり、そしてキッチンカウンターにかかとが当たりそれ以上後ろに進めなくなった。

「僕の気持ちは、君に伝わっていない? 君には、僕の気持ちが分からない?」
「……そんなこと」

 胸の前で組んだ両手を掴まれた。
 ……すこし、こわい。
 慎之介さんの顔を見ていることができなくなって、わたしはうつむいた。

「いっそ、君が、この気持ちを理解できない妖精さんだったらいいかなって。そんな風に思う時があるよ。だったら、こんなふうに焦れても仕方ないかなって」
「……慎之介さん」
「君を困らせるつもりはないんだ。ごめんね。……でも」

 わたしのほうが慎之介さんを困らせている。
 夏ごろから、ううん、もっと前からそういう気配は感じていた。慎之介さんに、特別な感情をよせられてるって。
 でも、わたしは慎之介さんの優しさに甘えて、彼の気持ちをはぐらかしてきた。ずっと、ずっと。
 わたしが困れば、慎之介さんは引いてくれる。それを利用していた。わたしは、酷い女だ。
 それももう、限界が来たようだ。それもそうだ。客観的に見てもわたしの態度はあまりにもひどい。慎之介さんが焦れて怒るのもよく分かる。分かるのに、わたしはそれにこたえることができないでいる。

 慎之介さんに好意を寄せてもらう資格なんて、わたしにはない。

「慎之介さん、ごめんなさい……」
「それ、って……」

 掴まれていた腕にギュッと力が入った。思わず顔をしかめたけれど、慎之介さんはわたしのそんな表情に気がつかないようだった。

「それは、僕のことが好きじゃないって、いうこと? 他に好きな人がいる?」
「……! ちがう! ちがうの」
「だったら」
「わたしも慎之介さんの気持ちにこたえたい。でも できないの。ごめんなさい」
「どうして」

 掴まれた腕がギリギリときしむ。痣になりそうだ。でも、離してくれなんて言えるわけがない。酷いことをしているのはわたしのほうだ。


 そして、わたしは長い告白をはじめた。

「わたし。人を愛する資格なんてないんです」

 小さいころから、両親の仲があまりよくなかったこと。わたしは、望まれて生まれたのではなかったらしいということ。わたしがいなければ、そんな風に言われたことも何度もあった。
 だから、わたしはこの世にいてはいけないんだろうとずっと思って生きてきたこと。
 でも、初恋の人に出会って、その人に喜んでもらうために料理を覚えて、わたしの作った料理で、誰かが喜んでくれる、わたしでも人の役に立てることがあるんだと知ったこと。
 その初恋の人は今はいなくなってしまった。わたしが好きになったり、欲しいと思ったものはいままですべてなくなってしまった。
 だから、わたしは何かを欲しいと願ったりしてはいけない子なんだと、ずっとそう思っていた。
 だって。わたしが欲しいと思ったら、その人はわたしの前からいなくなってしまうのだから。


 わたしはいつの間にかソファに座らされていて泣いていて、隣には慎之介さんがいて、わたしの肩を優しく抱いていてくれていた。
 その慎之介さんの肩にもたれるようにして、わたしは小さく息を吐いた。

「今まで、こんな話誰にもしたことがなかった」
「そうだろうね。君はいつも明るくて元気でニコニコ笑っていて、とてもそんな風には見えなかった」
「わたしの料理を誰かが美味しいって食べてくれて、そのときは本当に幸せなの」
「うん、君は人を、……僕を幸せにしてくれたよ」

 慎之介さんの長い指が、わたしの頬をなぞり、涙を拭いてくれた。

「誰かをしあわせにできる君が、幸せになっちゃいけないなんて、そんなわけがないよ」

 慎之介さんの顔からは、いつものふわりとした笑みが消えていた。わたしはあの時を思い出す。ホワイトデーの、あの海辺での出来事を。

「さっきは痛かったね、ごめんね」

 わたしの、赤くなった腕を優しく撫でてくれる。
 わたしはなにも言えずにただぼんやりと、慎之介さんの言葉を聞いていた。

「ねえ、二人で幸せになろう。僕らならできるよ。きっと」
「そうかな」
「そうだよ。僕は、君の前からいなくなったりしない。約束するよ」
「本当?」
「うん」
「ゼッタイ?」
「絶対! 王子様の約束だよ」
「絶対だよ……」

 慎之介さんの、服の裾をぎゅっとつかんだ。そうしたら、その手を優しく握られて、肩に回すようにされた。
 ぎゅっと、優しく、でも力強く引き寄せられる。

 わたしも強く慎之介さんのことを抱きしめ返しながら、耳元で囁く声を聞いた。

「離さない。いいね?」

 言葉が出なくて、わたしは一度うなずくだけで精いっぱいだった。


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