辻魁斗という少年

音羽くんと霧島くんは二年前に出会った→ふたりでダンスや歌のレッスンをしていた→魁斗が入ることになって顔合わせをした、
ということにしました。
前に書いてたのとちょっと設定が変わってますが、まあそんなに支障はないかな？　なければいいな？　と。

毒にも薬にもならない話を書いてしまった。

　三人目のメンバーは辻魁斗という、年下の男の子だった。
　僕より少し低い位置から、睨みつけるような視線を送ってきている。

「ねえ、辻くん、だっけ？　なんでいつも怒ってるの？」

　三人になって何回目かのダンスのレッスン。休憩中にドリンク飲んでたら、いつものようにその視線がとんできたから、僕は床に座っている魁斗にそう聞いてみた。
　すると、魁斗は明らかに驚いたような、動揺したような表情になって、ふいと僕から目をそらす。

「べ、別に、怒ってるわけじゃねえし……」
「そうなの？」

　会話、終了。

　僕も特別に饒舌な方じゃないけど、魁斗はそれ以上に口数が少ない。もう一人のメンバー、霧島くんだって決して会話が上手な方ではないし、なんとなく、これは苦労しそうだなあって思った。
　と同時に、もしかしたらそれは僕の役割なのかなあ、ってぼんやりと思った。
　僕はあまり面倒なことはしたくないし、霧島くんのように頭を使ってどうすればいいとかああした方がいいとか考えるのも苦手。だから今まではそういうことは全部霧島くんに任せてきた。そのほうがきっとうまくいくと思っていたから。
　だけど。僕ができることがもし、あるんだったら。それで霧島くんを助けたい、って思う。

　僕はもう一度、床にしゃがみこんでいる魁斗に話しかけた。今度は、僕も同じように床に座って。目線を合わせて。

「ねえ。いま霧島くんがやってるとこの動き。僕あれ苦手なんだ。辻くんさっき上手だったよね。なんかコツとかあるの？」
「えっ……？　コツっていうか……」

　魁斗は困ったように視線をうろうろとさまよわせた。
　そして、ぼそっと自身のなさそうな声で呟く。

「俺もそんなに……うまくないけど。でも、練習はしてる。部屋で鏡見ながらとか」
「へぇ。部屋でも自主練してるの？　すごいねエライね」
「別に偉くとかない……けど。っていうか、霧島くん、すげぇな、動き」
「でしょ。霧島くんはすごいんだよ」
「え。なんで音羽くんがそんなに自慢げなんだよ」
「だって僕、霧島くんのこと好きだから霧島くんが褒められると嬉しいし」
「……そういうとこだよ」

　珍しく、魁斗とたくさん話ができたと思っていたのに、そこで魁斗はふい、と僕から視線をそらしてドリンクを床に置いてしまった。

「どうしたの？」
「そうやって二人ばっかりやけに仲いいから、俺が入りこむスキがないんじゃないかって。時々思う……」

　ぼそぼそっと。
　普段もあまり大きな声を出す方じゃないけど、それはいつにもまして小さな声だった。

「なぁんだ。そんなこと」
「……っ！　そんなことって」
「それは僕らの方だって一緒だよ。魁斗、いつも怒ってるみたいに見つめてくるし、あまり喋ってくれないし。本当は僕らとやるの、嫌なのかなーって思ったりしてるんだよ」
「それは……、そんなこと、ない……けど」


　……なぁんだ。魁斗ってかわいい。
　弟っていうのがいたら、こんな感じなのかなって。僕はほんの少しだけ考えた。そしてちょっと笑った。

　こんなことがあってから、僕（と霧島くん）は急激に仲良くなっていったし、3Mjとしては今のように僕がふざけて魁斗がツッコミ、霧島くんがまとめる、っていうポジションが出来上がった。
　その時はこんなふうになるだなんて思っていなかったけれど、僕が自分で考えて、自分で行動した初めての話。