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恋煩い日記

2012年は毎日何かを書こう、という目標のもといろいろな創作をするブログになりました。

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お菓子禁止令

ときレス。

ハロウィンイベントでお菓子たくさん作りまくってたら音羽くんが来店しまくって、こんなにお菓子食べてたらいくら音羽王子でも太るんじゃないか、とか思って想像していた話。

アイドルが太るなんてありえない!! と自分でも思いましたが(笑)







(音羽くんのお菓子禁止令)




 その日の戦略ミーティングは、隊長のこんな言葉から始まった。

「先日の健康診断の結果が出た」

 体調管理も仕事の一つ、が口癖の霧島くんは、眼鏡の奥の瞳をきらりと光らせて、なぜか僕のほうをじっと見つめていた。

「なになに霧島くん、そんなに見つめても、僕はお姫様たちの王子様だから……」
「シン。お前、体重が増えているだろう」
「…………えっ」

 なぜか変な声を出したのはカイトだった。

「シン君……あんなに言われてるのに……」
「嘘だろ、そんなことないよ。だって僕、毎日絶好調だよ?」
「数字に表れているんだ、みろ」

 渡された結果用紙。
 どれどれ、とカイトも覗きこんでくる。そして、「マジだ……」と絶望的な声を上げる。
 ちょっと、やめてよ、先に言われると反応しづらいし。

「シン、これから目標数値に戻るまで、お菓子は一切禁止だ、いいな」
「えっ……えええーっ」

 世界が真っ暗になったかと思った。3Mjに入ってからは、こんなふうになることはなかったのに。ずっと昔に戻ったような気分になる。

「うそ……冗談だよね」
「冗談などではない。しっかりと体調管理できないお前が悪いんだ」
「ええーっ。そんな、僕、死んじゃうよ」
「お菓子を食べないくらいで死にはしない、大丈夫だ」
「全然大丈夫じゃない……」

 霧島くんには逆らえない。なんといっても3Mjのリーダーだし、僕はこの人について行けば楽しい世界に行けると信じているから。
 ……だけど、こんな仕打ちを受けるとは思わなかった……。

「そっか、だから今日のミーティングはレストランじゃなかったのか」

 カイトが納得したように発言した。

「そうだ、あそこに行くと、シンは甘いものばかり頼むからな」
「でもさ、全部禁止するのはかわいそうじゃねえ? シン君、あんなに落ち込んでるよ」
「シンには少しくらい厳しいくらいがちょうどいいんだ。カイト、お前だって俺がシンに甘いといつも文句を言ってるじゃないか」
「そうだけどさあ……」

 取りつく島もないとはこのことだ。カイトの気の毒そうな視線を浴びながら、僕は絶望的に机に突っ伏した。





「……っていうことがあってさ」
「だから今日の慎之介さんは珍しく甘いものを注文しなかったんですね」
「うん、君の作ったものなら、美味しく食べられるからね」

 テーブルの上には、カイトとおそろいのオムライス。スプーンで口に運びながら、僕がそう言うと、彼女は嬉しそうに微笑んだ。
 本当はデザートに甘いもの食べたいし、それに同じ彼女が作るものでもお菓子は格段においしい。幸せの味がするんだ。すごく、すっごく残念だけど、今僕には食事にも監視の目(という名前の辻魁人)がついてるから仕方ない。

「僕、いまずっと甘いもの我慢してるんだよ~」
「慎之介さん可哀そう……。でも、体重戻るまで、頑張ってくださいね」
「うん。早く戻すね。君の作った美味しいお菓子が食べられないせいで、全然調子が出ないよ」
「よく言うよ。シン君さっきのレッスン、先生にすげー褒められてたじゃん」
「だってさー、やる気が出ないなんて言ったら、霧島くんますます厳しくしそうだし。だから、お仕事頑張ってるんだよ、僕」
「それで、お菓子禁止令が早く撤回されるかもしれないって?」
「うん、そう」

 僕だって少しは物事を考えているし、霧島くんはちゃんと真面目にやっていれば本当は優しい男なんだってことだって知ってる。霧島くんが、僕が嫌がることをわざと意地悪でしているわけじゃないってこともちゃんと分かってるけど、時々、本当に厳しすぎるって感じることもある。自分にも、他人にもね。

 ランチタイムのレストランは比較的盛況だった。彼女は「それじゃあ、また」と言ってテーブルから離れて行き、僕はその後ろ姿にひらひらと笑顔で手を振る。
 そして正面に向き直ると、スプーンをくわえたままカイトがオムライスを見つめてニコニコしていた。背景にピンクのお花が三つくらい飛び出しているのが見えそうなくらいの笑顔。

「カイト、おいしい?」
「え、……っ、あ、ああ、うん、美味しい」
「よかったね。僕のも半分食べる?」
「いいよ。シンくん、ちゃんと食べないと。午後もレッスンとボイトレだろ」
「そっか」

 ドーナツならいくらでも入るんだけどなあ。僕はまだお皿の上に半分ほど残ったオムライスを見つめる。彼女の作ったものだし、おいしくないわけじゃないんだけど、やっぱりあんまり食べる気はしないな。

「シンくん、あんまり辛いなら、霧島くんにちゃんと言った方がいいんじゃない?」
「大丈夫だよ。元はと言えば僕が悪いんだしね」
「うん、でもさ、やっぱりシンくんが元気ないとなんか調子狂うっていうか……なんていうか」
「カイトは優しいね。じゃあさ、僕がこっそりここでドーナツ注文しても、隊長に黙っててくれる?」
「そっ、それはダメだろ!」
「ちぇ。カイト優しいと思ったらけちんぼ」

 そう言うと、カイトは「それとこれとは話が別だろ!」とか言って真っ赤になって慌てていた。可愛いの。





「今日も、ありがとうございました」
「うん、美味しかったよ。また来るね」
「魁人さんも、ありがとう」
「ああ。またな」

 食事が終わってお会計。
 ぎゅっ、と手を握りながらお釣りを渡してきた彼女に、少し違和感を感じたと思ったら、お金と一緒に小さななにかを手渡されていた。
 視線でなに? と問いかけると、(ナイショですよ)と彼女は唇に人差し指を当てて、最高にキュートな顔で微笑んでみせた。


「あー。午後のレッスン、眠くなりそう」
「僕も。早めに戻って、ちょっと昼寝でもしようか」
「それいいね。霧島くんに見つからないうちに行こう、シンくん」

 先に歩きだしたカイトの目を盗んで、彼女に渡された小さな白い紙の包みを開くと、小さなチョコがひとかけら。そして小さな文字で、「慎之介さん、がんばってね」と一言。

(……ふふっ、かわいい)

 思わず笑みが漏れた。
 すると、カイトが振り返ってこちらを睨んでいた。

「シンくん、何してんだよ、早く行こうぜ」
「あっ、ちょっと待ってよ」
「置いてくぞー」

 カイトを追いかけながら、このチョコは食べないで取っておくことに決めた。
 だって、こんなことがあったなんて隊長に知れたら、二重の意味で怒られちゃうからね。




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