こんな俺は誰にも見せられない

ときレス、「二人きりのクリスマス」伊達1/3イベントのネタバレというか、イベントを見たあとで妄想がたぎったのでこっちにやってきました。

10割捏造。台詞もちょっと変えてます。

　クリスマスから年末にかけて、ありがたいことにスケジュールがビッチリ埋まってしまってそれはそれで嬉しいことである。特に、俺たちみたいなデビューしてまだ1年めの駆けだしアイドルとしては、事務所のプッシュのおかげでもあることもは重々承知しているが、それでも俺たち、頑張った方なんじゃねーの、と自分をほめてやりたくなる時もある。（ちなみに、ケントとトオルは褒めない。あいつら褒めた途端に絶対に調子に乗るから）

　X.I.Pとしててっぺんを目指す。そう決めたから、休みがないとかで文句を言う気はさらさらないが、それでも俺には一つだけ、気がかりなことがあるんである。

　仕事と仕事の合間を縫って、レストランに駆けつけるとちょうどあいつが店のドアを閉めたところだった。
　見慣れたコック服を着た、小さな背中。冬の夜には少しばかり頼りなく見える後ろ姿だった。

「ハァイ、お疲れちゃん」

　声をかけると、振り返った彼女の顔は酷いもんだった。
　いや、世間一般からしたらまあフツウだろう。働く女性の就業間近の顔といったら、大体こんなものなのかもしれない。

「今日も可愛いね、と言いたいところだけど、クマ、出てるぜ」
「えっ本当に？」
「ああ、くっきり」
「やだ……」

　彼女は気にするように両手を目の下に当てた。
　俺はそんな彼女にたたみかけるように質問する。

「忙しそうだけど、ちゃんと休み取ってるか？　メシは？　食ってる？」
「え、えっと……」

　誤魔化すように彼女がえへ、と笑う。
　笑いごとじゃない。もっと自分を大事にしろ、と怒りたいところだけどいやいや、と思い直す。俺は彼女の何なんだ。実を言うと今のところ、彼女の店に通ってる常連客の一人でしかない。そりゃ、ただの常連客よりはちーっとばかり仲良くさせてもらってるとは思うけれど。
　核心的なことは何一つ、お互いに確かめ合っていないわけで。

　俺は言葉を飲み込んで代わりに一つため息をついた。

「そんな悪い子ちゃんには、悪いサンタがお仕置きしに来るからな？」
「それは……ちょっと、会ってみたいかも」
「ハハ。本当に悪い子ちゃんだな」

　ちゃんと休めよ、と言って帰ろうとすると、軽食だったら作る、とか言い出したのでまったくびっくりした。
　彼女がレストランのことが大好きで、仕事熱心なのは知ってる。そりゃだって、あいつがここへきてから1日だって店を休んでるのを見たことがないくらいだから。
　残念だけど仕事があるから、と言うと「こんなに遅くから？」と今度は彼女に驚かれてしまった。

「お疲れのお前を引きとめた悪いサンタはお仕事に戻るよ。おまえはゆっくり休むこと。いいね？」
「……うん、ありがとう、京也さん」
「どういたしまして。俺は、お前がここで元気に笑ってればそれで癒されるから」
「うん、じゃあ、いつでも待ってる」

　少しばかり名残惜しい気持ちを振り切って、俺は仕事場に戻った。

　彼女は俺の癒しだ。最後に言ったセリフは間違いじゃない。
　でも、俺は彼女に癒しを与えられているだろうか。あんな風に働かなくてももっと……。

　そんな風に考えて、でもなんだかそれは彼女を彼女でなくしてしまうような気がして、結局俺はどうしたらいいのか分からなくなるのだった。

　そういえば、クリスマスの予定も聞きそびれたままだ。仕事が詰まっていてとても会いに行けそうもないその日、あいつがどこで誰と過ごすのか、俺はいまだに聞けないでいる。