僕の生きる場所

昨日の記事の続きです。

今更ながら音羽くん視点に変えればよかったなあとおもったりしたんですが、霧島くんのまま走ってしまいました。

ここまでは書きためてあるのですが、この先はありませんので、時間かかるかもです。



元ネタは自分のツイート
「俺と一緒にアイドルにならないかって隊長が聞いたら、それってお金になる？生きていける？って聞くから、必死にやって成功すれば、と答えたらそうじゃなくて、明日生きてくお金はもらえる？って言われて、そんな人今まで見たことなかったから大いに面食らう霧島司」

（しあわせの味・２）





「それで、アイドルの件なんだが」
「ああ、そんなこと言ってたね」

　フレンチクルーラー、云々と鼻歌のように適当な節をつけて歌うシンに、ようやくここへ来た本題を切り出せたのは、彼がドーナツを4つほど胃の中に収めた後だった。
　正直、ここまでの流れでこいつを誘おうと思ったことは早計だったかもしれないと三割くらいは後悔していた。しかし残りの七割で、ここでこの稀有な存在を逃すのは惜しいと感じているのだった。

　俺は自分が芸能事務所に所属していること、今後アイドルとしてユニットをくんでデビューを控えているがメンバーがまだ決まっていないことや、そのユニットのコンセプトが「正統派王子系ユニット」であることなどを言える範囲で説明した。そして最後に、シンの見た目、声、雰囲気はまさに王子たるにふさわしいので、ぜひ加わってほしい、と付け加える。
　シンはそれを聞いているのか聞いていないのかよくわからないような顔で黙って聞いていた。
　そして、一通りの説明が終わると、一言目にこう言った。

「それやると、お金をもらえたりする？　生きていけるの？」
「お金……そうだな。必死にやってもし成功すれば、楽に暮らしていけるくらいの稼ぎにはなるんじゃないか。そんなの、だいぶ先の話だろうが」
「そうじゃなくて。今すぐ。明日から生きていける場所とお金、もらえる？」

　やっぱり、シンを誘うのは間違いだったのかもしれないとさっきの三割の後悔が五割くらいに増えた。

「僕、今住むところがないから。明日から寝る場所がもらえるんだったら行ってもいいよ」

　正直、今までの交友関係でこんな人物と付き合ったことがなかった。自分は割と恵まれた家庭で育ったという自覚はあったし、そのおかげで周りにいるのも自分と似たような境遇の友人が多かったのだ。住む所や今日の食事に困るような生活のことを想像すらしたことがなかった。

「今すぐに確約はできないが、事務所には寮もあるしそこに住むことは不可能ではないと思う」
「そっか。うん、いいよ」
「……いいのか？」
「なんでそんなに驚くの。霧島くんが誘ったんだよ」
「いや……しかしこんな話普通はそんなに即答しないだろう」

　シンはトレイの上に残っていたドーナツをまた手に取った。その表情は、最初に出会った時とちがって少し柔らかくなっていた。
　そして、そのドーナツを口に運びながら、こともなげに言う。

「いいよ。こんなに美味しいドーナツ食べさせてくれたんだ。今なら霧島くんにだったら、お金もらえなくてもついて行っちゃう気分」

　どんな殺し文句なんだと俺は頭を抱えたくなった。返そうにも返しきれなさそうな借りを、俺は今からこいつに作ろうとしているのかもしれない。たとえそうだとしても、全力で返す気でいるのだが。（つまり、これから作るユニットを成功させるということだ）
　そう思っていたのに。

「もし、アイドル失敗して食べられなくなったら、その時は霧島くん、ちゃんと僕のことも面倒見てね」

　挑発するような目つきでそんなことまで言われて、俺はこの借りは絶対にすぐに返す。こいつに、アイドルになってよかったと思わせてやる。そう決意を固めたのだった。