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恋煩い日記

2012年は毎日何かを書こう、という目標のもといろいろな創作をするブログになりました。

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神崎くんの話

ここ数日、リアルに自分の体調が悪いんですが、そういうときは妄想でも風邪ひきのお見舞いの話とか考えますよね。

という話。







(布団の神様)


「チワーッス。……あれ。レス子は?」
「昨日から 熱があってな。今日は休ませた」
「はぁっ? そんなの俺、聞いてねーし」
「そうじゃろうなあ、あやつも、誰にも言わないと言っておった」
「なにそれ。心配掛けさせたくないとか? バカじゃん」
「おまえさんも知っての通り、あの子は少し無理をしすぎるところがあるからの」

 見舞いにでも行ってやってくれ。ひとりで今頃心細くなっているかもしれん。
 ……なんてジーサンに頼まれたから、じゃねーけど。
 俺はその日、仕事が終わったケントと一緒にアイツの家に向かっていた。

「トール、お前心配してんのか?」
「別にー? あいつもオトナだし、風邪の一つくらいで泣くような女じゃねーじゃん」
「それもそうだな」
「……でもさ」
「……?」

 途中で寄ったコンビニの袋をぶら下げて、ケントがこっちを見下ろしてくる。俺はその顔を見ずに答える。

「具合悪いときに一人だなんて、さびしーんじゃねえかと思ってさ」

 俺らの周りには常に何人も同じようなガキがいっぱいいたから、風邪で寝てても一人になることなんかなかったけど。でもなんとなく想像でさ。そういう気持ちになるんじゃないかと思った。
 ケントは相変わらずいつものように、なんにも考えていないような早さで「そうだな」と答えた。






「とっ、透さん! それに、剣人さんも!」

 部屋のドアを開けたあいつはいつもと違ってすっぴんで、髪もボサボサの部屋着だった。
 今も寝ていたのだろう。部屋の中は綺麗に片付いていて、ベッドのわきに水の入ったペットボトルと体温計、それに医者から貰って来たらしい薬が置いてあった。

「ごっ、ごめんね、こんな恰好で……っていうか、来るなら一言いってくれればいいのに」
「いや、お前、寝てるかと思ったし。ちょっとだけですぐ帰るからさ。なー、ケント」
「そうだな」

 まだ少し熱がある、というあいつをベッドに寝かせ。コンビニで買って来たプリンとポカリを冷蔵庫に入れた。

「ごめんね、ありがとう」
「おう。早く治せよ」
「うん。お医者様にもいったし、大丈夫だよ」
「早く店来いよなー。今日の昼だってさ、せっかく店行ったのにお前のメシ食えなかったし」
「ごっ、ごめん!」
「お前、そういうときはメールとかしろよな。無駄足踏んだじゃんか」
「うう……本当にごめんなさい」
「俺だけ無駄足なのもムカつくからさー、ケントと京也さんにも、それから王子たちにも誰にも教えてやらなかったぜ。みんな、今頃行ってがっかりしてんだろうなw」
「そんな……ふふっ」
「王子たちがションボリしてんの、目に浮かぶな」
「ふふふ。そんな、悪いよ」
「お前だって、笑ってんじゃん」

 こいつがあの店に来てから。俺たちにとってそれまではタダのたまり場なだけだったあの店に行く目的は、こいつに会いに行くことになっているような部分がたしかにあった。それと、いつ行ってもいる、他の5人のライバルたちを牽制することも。
 こいつがあの店にいて笑顔で出迎えてくれること、俺たちの好きなものをいつも作ってくれることは、慣れないアイドル活動を続けて行く上で俺にとっては欠かせなかった。
 今日行って、コイツの顔が見れなくて、すごく失望したんだ。もっといえば、さびしかった。

 そんなの、恥ずかしいしカッコ悪いからこいつの前では絶対に言わないけど。


「おい、トール、あれやれよ」

 急にケントが口を開いた。

「……ん? えーっ? ケントがやれよ、恥ずかしい」
「俺は重い。こいつの負担になるからお前やれ」
「なんだよ、俺はチビじゃねーぞ……」

 いってもケントは動こうとしないので、仕方なく俺は彼女をベッドに寝かせた。そして布団を頭の上まで引き上げる。

「俺ら、もう帰るから、お前このまま寝ろよ」
「と、透さん!? ちょっとなにするの?」

 布団の中からくぐもった声が聞こえるが、無視して俺は布団の上から彼女の体をぎゅっと抱きしめた。
 ……ケントが見てると思うとすっげー恥ずかしいんだけど。

「透さん!?」
「変なことしねーって。黙ってろ。そんで、もう寝ろよ。いいな」
「う、うん、分かったけど……」
「……布団の神様、熱を、全部、ぜんぶ、吸い取ってください。お願いします」

 ぎゅっと、更に力を入れて抱きしめる。はぁ……。布団越しじゃなくてさあ、それに背後にケントもいない状況で、したいよなあ。という願望が一瞬頭をよぎる。しょうがねえんだけど。

「ほい。おわり。じゃーな、お前このまま寝ろ。そんで、早く治して早くレストラン出て来いよな。じゃあな!」
「……じゃあな。おやすみ」
「う、うん……、透さん、剣人さん、ありがとう……、おやすみなさい」


 去り際に見た、布団から目だけ出してるあいつが可愛すぎた。アレを見れただけでも、ここに来た甲斐あったし、王子たちにちょっと優越感だな。


 明日はアイツの店行かないでおこう。病み上がりだったら忙しくない方が楽だろうし。
 そんなことを話しながら、ケントと一緒に帰り道を急いだ。





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